民宿

2000/08/13

何年か前に、ドイツのハノーバーと言う都市に行って来ました。

目的は、ハノーバーメッセと言うコンピューターショウの見学の為です。
お金をかけない旅なので、ホテルでなく民宿に宿泊する事になりました。
この民宿というのは、初めての経験でしたが本当に普通の家の１部屋を借りると言う感じでした。
一応、観光協会（？）で登録されている家でした。

家族は、夫婦と子供２人の４人家族で上のお姉さんはどこかに行っていると言う様な事を話していました。
家には、１７，８歳の息子さんが同居していました。
私は、今はいないお姉さんの部屋（そのままの状態）を貸して貰いました。

この部屋は、友達の家に遊びに行ってその子の部屋に入った時の様にお姉さんが今まで使っていた感じになっていました。
（人を泊める民宿の部屋とは言い難い）
その為、家具調度品は極力触らないように心がけました。

ホームスティしている様に朝と夜は家族３人と私との４人で食事をし本当の家族の様に親切にして貰いました。
ドイツ語は話せないので、お互い、たどたどしい英語と身振り手振りでコミュニケーションを取っていました。

次の日は、ショー見学に行き夜の８時頃民宿に着きました。
食事は、私１人でしたが周りで家族が集まってお喋りをしたりしながら済ませました。
楽しい時間を過ごし、就寝の為部屋に戻りベットに横たわりました。
何時間か経って”ふと”目が覚めるとドレッサーの前に若い女の人が立っていました。

”この家の娘さんだ！　アッ、ドアの鍵を閉め忘れたかな。”

と思い、ベットから起きあがり声を掛けました。
振り向いた娘さんは、物凄い美しい人で思わず見とれてしまいました。
娘さんは、

”ニコッ”

と微笑むとドアから出ていってしまいました。

”綺麗な人。でも、ドアの音が．．．．。”

彼女が出ていった時、ドアの音を聞いた気がしませんでした。

”鍵掛けなきゃ”

とドアへ行って鍵を確かめると鍵は掛かっています。
おかしいと思いましたが、その日の疲れもありそのまま寝てしまいました。

翌朝、朝食時に昨夜の話をし娘さんはどうした等の質問をしましたが奥さんの言葉はよく分からなかったので出かけたと思いました。
その日の夜は、シャワーを浴びようと浴室へ行き浴槽（物凄く大きい）のカーテンを空けると昨夜の女の人が全裸でシャワーを浴びていました。

「あっ！」

とあわててカーテンを締め浴室から出たのですがよく考えると入った時にシャワーの音がしていなかったのにカーテンを開けたらシャワー音と供にシャワーを浴びていたこと。
シャワー室から出て立ち止まった時、浴室はシーンと静まり帰っていることなど、

”おかしい！”

とこの時思いました。
一度、思うと後は薄気味悪くなり怖さも有ってシャワーを浴びずにベットに潜り込みました。

翌朝、帰る日でしたが昨日と同じように質問してもらちが明かないので、観光協会へ行ってその家の事を問いただしました。
すると、その家族の長女は何年か前に既に死亡していて言うことを知りそこの人と一緒に家に行って奥さんに今までの出来事を説明して貰いました。
奥さんは泣きながら１枚の写真を見せてくれました。
そこには、にこやかに微笑む女の人が映っていました。
私が会ったと同じ女の人は１年前に既にこの世に亡く、何故出てきたか家族の人も頭を捻っていました。

私は、初日にドレッサーの前にいた事を話すとみんなで娘の部屋へと行きました。
あちこち見回している家にドレッサーの引き出しを取り出すとその下に手紙が１通有りました。
奥さんが読み泣き崩れ、周りでその手紙を読んだ人も神妙な顔つきになりました。
私も読ませて貰ったのですが、ドイツ語の為何が書いてあるか分かりませんでした。
飛行機の時間が気になっていたのでその家族に今までのお礼を述べそそくさと帰路につきました。

何故、あの家の娘は現れたのでしょうか。
初めて泊まる日本人に興味を持って出てきてしまったのでしょうか。
今思うと、あの手紙には何が書いて有ったのか非常に気になります。

何故、内容を聞かなかったのかと。

その中には、あの家の娘さんが出てきた理由がきっと書かれていたに違い有りません。

何と書いてあったのでしょう。
気になります。

今となっては知る方法が有りません。



＜マコさん＞