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先輩

2000/08/07


私の会社は深夜残業、休出出勤が当たり前のような会社です。

それも、各個人によって必ず忙しい人といつも定時間内に作業を終えて、休日出勤などとんでもない!と言う様な人の2つのタイプに分かれています。
私は、前者のグループで必ず帰宅は午前様、休日は年間数日と言う厳しい環境下で生活しています。
身体の方もこの環境に慣れ、まだ若いこともあって毎日がんばって仕事していました。
しかし、最近、深夜残業、休出出勤は、特に1人で作業する時辛くなりました。
体力的には異常ないのですが、精神的にまいっています。

それは、ある深夜残業の時から始まりました。
始まったと言うより気が付かなかったのかもしれません。

私のいるオフィスは、かなり大きな部屋に机が並んでいます。
机の上には17inch以上のPC(パソコン:以後PCと称します。)のディスプレイが立ち並び、昼間の喧騒の中では現代風の洒落たオフィスと言う感じですが、深夜1人で作業する場合は自分の机の周りの1部分だけ蛍光灯が点いていて部屋全体が薄暗くなっています。
薄暗いオフィス、電源が入らず真っ黒なモニターがズラーと並んだ光景は何とも不気味な感じです。

しかし、仕事に追われている私はひたすら自分のモニターを見つめてキーボードを

「カチッカチッ」

と無心に打ち込んでいます。
ある時、気が付いたのですが自分のキーボードを打ち込む音の他にもう一つのキーボードを打ち込む音が聞こえてきました。
自分の席からは立ち上がらないと周りのモニターの陰になるような所からです。
暫くして気持ちが悪くなってきたので、打ち込みの手を休め聞き耳を立てていました。

「なんだ、勘違いか」

音はしません。再び、打ち込み作業を続けます。
暫くするとまた、自分の打ち込みと合わせる様に先ほどの場所辺りからキーボードを打ち込む音がします。
また、各机にはグレーの椅子がペアとなっています。
足の下に4つの車輪が着いたよくある事務用の椅子です。
この椅子って、背もたれに寄りかかったり、少し身体を動かすと、

「キュリッキュリッ」

とか

「キュルルルルゥ」

とか音がします。
私もキーボードの音に混じって身体が動くたびに椅子の音がしていましたが先ほどの場所からも自分が出している音とは別の椅子の音がしている様です。

私は、いきなり立ち上がりその場所を覗き込む様に確認しました。
その場所には、人気がありません。
少し怖かったのですが、その場所(机の所)に行きました。
案の定、椅子は机にきちっと置かれていてPCの電源も入っていません。

「やだなぁ」

と思っていると、

「ピコッ」

と言う音と供にPCの電源が入りました。

「おぉぉ。」

と余りの事に立ちつくしてしまいました。

その内、PCは立ち上がり始め(Windows)あのスタートの、

「ジャジャーン」

と言う音楽が流れました。
その時、その音に混じって、

「・・がしい。・そがしい。いそがしい。ふぅー。」

と言う男の人の声が聞こえてきました。
私は、作業途中で会社を後に逃げ出しました。

翌朝、出勤し上司に大目玉を食らいました。
電灯は付けっぱなし、PCの電源も点けっぱなし。
入り口の鍵も開けっ放し。

「お前、会社の重要機密が盗まれたらどうするんだ。」

何時間もお説教されました。
ただ、上司のお説教よりも昨日の例の机の上のPCが気になっていました。
何故なら、机は有るのですがPCはありません。
机も、使われていないようでコピー紙などの荷物置き場のようになっています。

上司の説教も一段落した頃、

「どうもすみませんでした。以後、気を付けます。」
「頼むよ。」
「ところで、一つお聞きしたいことが有るのですが。」
「なにかね。」
「あそこに、机がありますよね。.....」

と昨夜の話を上司にしました。
上司は、険しい顔つきになり、

”あっ。余計なことを言ってしまった。また、怒られるのか”

とひやひやしていると、

「ウームッ。今日、帰りに飲みに行こうか。」

と誘われ、その時に有る話をしてくれました。
その話は、忙しい会社にありがちですが、何年か前にバリバリ働く社員がいました。
あるプロッジェクトを任された彼は、ほとんど会社に入り浸りで仕事に熱中していました。
しかし、毎日のハードワークで身体にかなり負担が掛かっていた様で、納期の1週間前ポックリと自分の机の上で無くなったそうです。

その後、深夜残業などをしていると私の体験したと同じ体験を何人もの社員が経験したそうです。
私も上司もその中の1人だったそうです。
その後、お払いをしてひとまず収まりましたが、私の様に深夜残業当たり前、休日出勤当然と言う感じの社員には働き過ぎのサインを送るようにごくたまにこの様な現象を体験させるそうです。

「最近、がんばってるようだから一区切りついたところで少し休暇を取りなさい。」

と上司から優しい言葉を貰いました。

今でも、納期間近の為、ハードワークになる時、あの音が聞こえ来ます。

「あれは、俺を心配してくれているんだ。」

と思って仕事を続けますが、やはり怖いです。

もう一度、お払いをして貰いたいと思っています。


<兼さん>