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海キャンプ

2000/07/20


何年になりますか、西伊豆の土肥から数キロ離れた所の海水浴場にキャンプに行きました。

有名な海水浴場でなく小さな、地元の者でないとわからない様な所です。
その海岸は、駐車場から2百メートルぐらい離れたところにあり、急な下り坂を降りて行かないとその小さな浜にはたどり着けません。
駐車場(7台くらい止められる)には、おばさんがいて、駐車料金をを徴収しています。

「あんたっちは、キャンプしないらね。」

ご存じの様に、伊豆の海岸線は基本的にキャンプ禁止です。
おばさんの口調には、どことなく心配そうな何か強いものを感じます。

「キャンプなんてしないよ。泳ぐだけ。」

本当は、友達二人とキャンプの為に来ています。
昼過ぎに、浜に到着しました。

海水浴場にいるのは、5組ぐらいの家族連れや若いカップル達でした。
昼間の間、サザエなどの貝類を捕って夕食/朝食の材料を調達しておきました。

6時頃には、自分たち以外誰もいなくなりました。

「さぁ、テント張って食事の用意をするぞ。」
「駐車場のおばさんが来ないかな。」
「大丈夫、わざわざここまで、めんどくさくて来やしねぇよ。」

その日に採った魚介類でバーベキューをし、酒をしこたま飲んで夜も更けて行きました。
その日は、月夜で崖に囲まれたこの浜は真っ暗闇にならず月明かりでそれなりの明るさが確保できました。
ランタンを持ってきていましたが、ランタンの明るさでは、漁にでている漁船に見つかってしまうので極力明かりは使わずに月明かりで過ごしました。

その後、酔いもまわって、テントに入りました。
テントの入り口を海側に向け空けていると気持ちの良い潮風がテント内に入って心地よい感じでした。

夜中、ふと目が覚めました。
物凄い潮の臭いが鼻についたからです。
月も後ろ手の崖に掛かっていてもう少し立つと、この浜辺も月明かりが届かなくなる様でした。

「ザパァァン」

大きな波の後が何とも嫌な音に感じます。
その時です。
テントの入り口から外の海を見ると、月明かりでキラキラ輝いでいる海面に3つの黒いボールが浮いています。
その動きは不規則で、お互いが右へ行ったり左に行ったりと動き回っています。

「なんだろう。」

その時、後ろで寝ていた友達が起きていて自分の頭越しに海を見ていました。
(この時は、ものすごくビックリしました。)

「入り口を閉めた方がいい。」

友人は、夢中で入り口のチャックを閉めました。
夜とは言え真夏です。
最初、サウナのように暑くなると思いましたがテントの中はひんやりとしていました。その内、

「バチャッバチャッ。ザッ、ザッ、ザッ。」

と波打ち際から砂浜を歩いて来る足音がします。
その足音は、テントの入り口の前まで来て止まりました。
それと同時に、後ろにいた友達は急いで内側からチャックを押さえました。
外からは、何者かが入り口のチャックを開けようとしていますが友達が押さえている為、チャックは上がりません。
その内、テントを平手で、

「パンッ、パンッ」

と叩いたり、中からその顔の輪郭が見えるくらい顔をテントにくっつけたりと、テントに入りたい!入らせろ!と言う仕草をします。

不思議なことに、外にいる者は一切言葉を発しません。
自分は、悲鳴を上げそうになりましたが友人の目配せで思いとどまり、どうして良いか分からずジットしていました。
その間、物凄い潮の臭いが立ちこめていたのを覚えています。

数十分後(数分かも知れない)、外に人の気配が無くなりました。
それと同時に、テント内はサウナの様に暑くなり息苦しくなりました。
友達は、暫くしてテントの入り口を開けました。
外に見える海には先ほどのボールに様なものは見えず遠くの沖合にイカ釣りの漁船でしょうか煌々とライトを点けた船が2,3隻見えていました。

「あれ、なんだったんだろう。」

友達に聞いてみましたが、返事がありません。

「なぁ、もう帰らない。」
「おまえ、あの暗い道を駐車所まで上がって行く勇気があるか。」

確かに、真っ暗な崖づたいの道を登って行く勇気は有りませんでした。
もしかしたら、さっきの奴がいるかも....。

やっと、空が薄紫色になてきました。もうすぐ朝です。
暫くして、空が白み始めました。

「やっと、朝だ。外に出よう。」

テントから出て、外の空気を深呼吸したとき、”生きかえったぁ”と思いました。

その思いも一瞬でうち消されました。
テントの周りには無数の海草や貝殻が散乱しています。
また、それらは、3本の線となって海へと続いていました。
2人は、急いでテントをたたみ昨日来た坂道を上って駐車場まで走りました。

駐車場に着くと昨日のおばさんがいて、

「あんたっち、が心配で来てみたけどここに泊まったのか。大丈夫だった。」

と怒るよりも物凄く心配そうにしていました。

「夕方になっても帰ってこないので心配したよ。あの時間は下に降りられないし...」

おばさんはそれ以上話しません。
自分たちもそれ以上聞きたくありませんでした。

伊豆の海岸線のキャンプは、全面禁止です。

最初、犯罪、青少年非行防止の為などと思っていましたが全てそれだけでは無い様に思われます。

自分たちの経験した同じ事を既に経験した人達がいて、その教訓を生かして決められた規則ではないのでしょうか。

その土地土地の、ルールはむやみに破らない方が良い様です。


H.M