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桜の木

2000/07/10


私の家には1匹の雌犬がいます。

気が優しいを通り越し、誰が来ても

「ハァハァ、ハァハァ」

しっぽをフリフリ大喜びし、とてもじゃないですが番犬にはなりません。

いつも、ボーッとした感じで散歩中も

”のたくら、のたくら”

歩いています。

いつだったか、車の下にいた猫を覗き込んで逆襲に合い

「キャイン、キャイン」

と鳴きながら私をひっぱて逃げました。

こんな、のんびりとした気の良い雌犬です。

ある日の夕方、散歩の為、川沿いの遊歩道を歩いていました。
だんだん周りも暗くなってきて視界が悪くなってきた時です。
進行方向い大きな桜の木がありそれに向かって”ピタッ”と歩くのを止めました。

普段の散歩コースなので初めての事でした。
今まで、ヘロヘロ歩いていた雌犬が今まで見たこともないように、

”キリッ”

と顔を上げ前方の桜の木を見ながら立ち止まっています。

「どうしたの、おいで。」

と言いながら紐を引っ張ったのですがピクリとも動きません。
桜の木の所に何かいるののかと目を凝らしてみたのですが何も居ない様です。
この犬の、こんなりりしい顔を見るのは初めてだし桜の木を凝視する態度が尋常ではないので先に進まず今来た道を戻ることにしました。
その時は、

「おいで。」

と言うと素直に従いました。
その後は、いつもの様にヘロヘロしながら歩いていました。

「なんだったのだろう。」

と思いましたが、いつもの散歩コースなので余り怖い事を考えずに家路に着きました。

その夜、夢を見ました。
その日の散歩の光景です。
川沿いの遊歩道を歩き、大きな桜の木の前でまたもや雌犬が

”キリッ”

とした表情で止まります。
ここからが、夢ならではですが、

「あそこに行っちゃ駄目。」

雌犬が、前方の桜の木を見ながら私に訴えます。

「何で駄目なの。」

私も雌犬に説いた正します。

「ほら、あそこ見てごらん。」

その先には、桜の木の斜め後ろにゆらゆら揺れている白い人が見えます。
よく見ると、白いワンピースを着た女の人が地面より50cm位空中に浮いていてゆらゆら揺れています。

「あれ何。」
「この世の者では無いね。」
「怖いね。」
「でも、今だけだよ。」

と言っていました。

そこで目を覚ましましたが、その夢は、鮮明に記憶されていました。

その日の夕方、少し嫌だったのですがいつもと同じコースで散歩をしました。
川沿いの遊歩道を歩き、例の桜の木が近づいて来ます。
でも、雌犬はいつも通りヘロヘロ歩いています。

結局、何事も無く桜の木を通り過ぎ家まで無事に帰りました。
桜の木を通り過ぎた後、昨夜の夢で見た場所を”チラッ”と見ましたが何もありませんでした。

あの日だけは、特別な日だったのでしょうか。

私の不思議な体験談でした。

<リリさん>